積極戦略でつくる「当社の成功方程式」

私が支援させていただいている建設業のA社は、ここ数年で劇的な経営改善を果たしました。経営改善計画策定以来、2期連続で大幅増収・増益、営業・経常黒字を達成しています。

なぜ、A社はこれほど短期間で変われたのか。それは、単なる「改善」ではなく、自社の強みを最大限に活かせる「狙いどころ」を明確に定め、「当社はこれでいく!」と腹を括る積極戦略を打ち出したからです。

今回は、私(長野研一)が2年前に方向性を示唆し、今回、その成果を検証する社長との面談のやりとりを再現し、業績を好転させた「当社流の成功方程式」が確立されるまでのプロセスをご紹介します。

「膿」ではなく「方針の不在」が赤字の原因だった

A社が経営改善計画を策定する直前、業績は厳しい状況にあり、ある決算期では大幅な赤字を計上していました。先日私は、2年前の計画策定時を振り返り、ビフォー・アフターで最も大きく変化した点――すなわち業績好転の決定要因について、社長のご認識をうかがいました。

私(コンサルタント) 「2年前の計画策定から今日までを振り返って、業績好転の一番の要因はどこにあったとお考えですか?

A社社長 「2年前の大幅赤字は、いわば過去の膿を出し切った結果であり、当社の実力そのままではなかったと思っています。でも、当時の最大の課題は、『当社はこれに傾注する』という方針が立っていなかったことでした。結局、私の人脈を生かした消極的な受注姿勢に終始していた結果、構造的な赤字体質が続いていたと痛感しています」

私「おっしゃる通りですね。あのときの本質的な問題は、赤字という“結果”そのものよりも、むしろ“方針が定まっていなかった”という“原因”のほうにありました。当社固有の強みを、最も効果的に活かせるニッチな市場機会にぶつけていく――いわば、『当社はこれでいく!』という積極戦略のシナリオが、当時はまだ描ききれていなかったわけです。」

この認識を当時共有できたことが、V字回復の第一歩だったと確信しています。自分たちがどこで、どう戦うか、という地図を描き直す必要があったのです。

 

「マネジメントサービス」に特化するという狙いどころ

A社が新たに定めた「狙いどころ」は、従来の「外注頼りの下請け」から一線を画すものでした。それは、「高付加価値なマネジメントサービスを軸に事業を再構築する」という積極戦略へのシフトです。この方向性は、実は2年前の計画策定時、私、長野研一が会社の強みと市場のニッチを分析し、明確に打ち出すよう強く後押ししたものです。そして、今回の面談は、その2年間の道のりを振り返るフォローアップとなっています。

面談では、具体的な行動と成果について、担当者から説明を受けました。

A社担当者 「当初の計画では、特定の工事の売り込みを考えていましたが、方向転換しました。むしろ、事業基盤の強化と、より安定した元請け案件への参画を目指し、特定の優良企業と提携しました。そして、そのグループ企業が受注する工事を、当社が独自の強みである高度なマネジメントサービスを提供することで推進する路線に切り替えました」

「それがまさに成功の鍵ですね。粗利益の見込みはどれくらいで設定したのでしょうか?」

A社担当者 「はい、従来の粗利益率を大幅に上回る収益ラインを最低見込める設定で動いています。それに加えて、管理体制が手薄になりがちな企業の下請けに対しても、当社のマネジメント能力を付加価値として提供することで、高収益を確保しています。つまり、今の当社の成功方程式は、自社のマネジメント能力に特化する分野にシフトしたということになります」

ここで、社長がその「狙いどころ」を見つけた本音を語ってくれました。

A社社長 「このアクションに関しては成功だと感じています。今までは外注に頼りがちでしたが、今は当社が○○にこだわり、主体的に施工を推進するという部分にこだわってやっている。もちろん、現場作業を全て自社でやるわけではないけれども、高い管理能力を付加価値として提供する。これでね、私なりに表現するなら『落ち着ける場所が見つかった』んです。だから、これを深掘りする、というのが今の当社の活動の中心だよね、という考え方です」

この「落ち着ける場所」こそが、A社にとっての「当社流の成功方程式」です。単に仕事を増やすのではなく、「○○」という自社の真の強み活かし、高収益を生むニッチな市場(元請け補助や○○力不足の会社の補完)に特化したのです。

成功方程式を「深耕」するための仕組みづくり

「これでいく!」という方向性が決まると、次はそれを支える仕組みの整備が不可欠です。A社は、この成功方程式を組織に定着させるための「深耕戦略」を立てました。

A社担当者 「次に、その取り組みを支える仕組みの部分です。まず、プロフェッショナルな管理体制を担うチーム体制の確立は達成しました。さらに、リアルタイムでの利益管理を目指し、業務管理システムを導入しました。補助金を活用して費用投下をしています」

「リアルタイム管理は重要ですね。それが導入されると、どんないいことがありますか?」

A社担当者 「現場からの報告がシステムに集約されると、自動的に勤怠や機械使用状況などが記録されます。これにより、工事別原価が即日に見れるような体制ができるはずです。正直、これまでは利益管理体制に不安があったのですが、これで大幅にカバーできると期待しています」

成功方程式の実現に必要な人材育成も進んでいます。現在、若手社員が複数の施工管理資格の合格を見込んでいるほか、積極的なスキルアップが社内のムードとなっています。また、事業基盤の強化により、受注できる工事規模が従来の2~3倍に拡大し、現場効率の向上と利益率アップが見込まれるという好循環に入っています。

まとめ:「これでいく!」と決めた会社だけが伸びる

A社の劇的な回復は、単なる営業努力や経費削減の結果ではありません。

  1. 「方針不在」を問題と認識する(赤字の原因が膿ではなく戦略の欠如だと気づく)。

  2. 「高付加価値のマネジメントサービス」という積極戦略(自社固有の強みを活かす狙いどころ)を明確に打ち出す。

  3. その成功方程式を深耕するための仕組み(リアルタイム管理、プロフェッショナル体制)を構築する。

「当社はこれでいく!」と積極戦略を打ち出せた会社だけが、不確実な市場で「落ち着ける場所」を見つけ、独自の「当社流の成功方程式」を確立し、成長を続けるのです。この成功は社長の迅速な意思決定と実行力によるものですが、2年前、その羅針盤となる「これでいく!」の方向性を共に定め、具体化を導いたパートナーとして、私もこの結果を嬉しく思っています。

(注)A社の経営戦略上の重要事項にあたる部分は、ぼかしたり伏字を用いています。

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